Keio STARの副所長として
2023年9月に母校である慶應義塾大学に教員として着任してから、いくつかのイニシアティブに関わってきました。8月22日に、そのうちの1つ、Keio STARのキックオフイベントが三田キャンパス北別館で開催されました。Keio STARは、慶應義塾の学部横断的な、サステナビリティ分野のアクションを起こしていくために設立された、研究センターです。芦澤はKeio STARの副所長として、イノベーション実践のイニシアティブ活動を進めていくことになります。
「オープンイノベーションと慶應IOI(インパクトオープンイノベーション)プロジェクト」
8月22日に私がモデレーターをしたセッションは、「オープンイノベーションと慶應IOI」というタイトルで、以下のメンバーとパネルディスカッションをしました。
– 経済産業省イノベーション環境局局長 菊川人吾氏
– 日本電気(NEC)コーポレートSVP未来価値競争部門長 和田茂樹氏
– アスエネ株式会社代表取締役CEO 西和田浩平氏
西和田氏からは、創業6年で日本のクライメートテックのトップ・スタートアップ企業となった経緯、今後のチャレンジについてお話がありました。
和田氏からは、日本を代表する大企業としてのこれまでのオープンイノベーションの取り組み、現在取り組んでいる新しい挑戦のお話がありました。
菊川氏からは、日本政府がスタートアップ/イノベーションをどのようにとらえ、どう支援していくのかの最前線の議論を共有いただきました。
芦澤はKeio STARの副所長として「産学官が連携して日本のGX分野におけるイノベーションを前に進める」ためのイニシアティブの取り組みの説明をしました。
オープンイノベーション、大企業のスタートアップM&Aの促進のために
Keio STARは10月から三田キャンパス北別館を拠点として活動をスタートします。会員制の組織として、広く産学官、海外からもメンバーを募り、日本からサステナビリティのイニシアティブを取っていくことになります。
私の今年度活動の主眼は「大企業のオープンイノベーション、特にスタートアップとの連携をどうやって加速させるか」
特に、スタートアップM&Aを大企業のコーポレートディベロップメントに連結させ、CVCや新規事業部署を全社戦略にアラインする。その方法論について研究・議論・提言をしていきたいと考えています。
このセンターは、実は慶應義塾という大組織における大きな挑戦でもあります。そのことについて、懇親会で、芦澤が乾杯のスピーチをしました。そこでお話したことを以下、置いておきます。
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慶應義塾大学北別館にようこそ。ここは3月に竣工したばかり、高級レジデンス三田ガーデンヒルズの一画に、一体開発されたビルです。実に風格ある素晴らしい建物です
皆さま今日ここにいらして「さすが慶應、お金持ち!」と思ったのではないでしょうか。
しかし実態はそんな華やかなものではありません。この場所は伊藤塾長のリーダーシップの下で、新しい慶應義塾の姿を具現化することを使命とした場所です。
コストセンターではなく、プロフィットセンターとして活動する。
大学がその知、眠っている資源を使ってアクションを起こし、その価値を認めてもらって、サステナブルな運営を目指そうとする場所です。
このことが大学にとってどうしてチャレンジングなのか。それを理解していただくのに、象徴的な会話が、2日前にありました。
我が家には高3の受験生がいまして、その息子に付き合って、私もお盆期間中ほとんど家から出ず研究に集中していました。可哀いそうと思われるかもしれませんが、実は我々研究者にとっては違います。お盆休みで事務的なメールが一切入らない静かな環境で、一日中研究に没頭する。自分の頭の中に新しい知識が入りこみ、新しいアイデアがわき、世界が広がっていく感覚は、とてもとても幸せなものです。これこそ、研究者になった醍醐味、至福の時です。
その話を2日前、蟹江先生(keio STAR副所長)にしたんですね。「わたし10日間ほど家からほとんど出ず、ずっと研究してたんです!研究が進んで幸せでしたー」と。そうしたら、蟹江先生が何と言ったと思いますか?蟹江先生はこう言ったんです。「だからみんな研究室から出てこないんだよね」と。
この蟹江先生の発言を聞いて、はっとし、私は「学問のすゝめ」に書かれていたある文章を思い出しました。
それは「活用なき学問は無学に等しい」という言葉です。
明治時代の初期、この国に課題が山積する中で、蘭学者たちがジャーゴンで会話し、現実社会に出てこない。その状況を憂いて福澤諭吉先生は慶應義塾を作ったのだと「学問のすゝめ」には書かれています。研究者は自分の頭にどんどん知恵のフロンティアを広げていきます。でも、それは、社会に活用しなければ、ただただ研究者個人の幸せのためのみとなってしまう。それでよいのか?と
今もこの地球には多くの課題が山積しています。我々Keio STARが取り組もうとするのは、地球の危機に対峙し、解決しようとするサステナビリティ課題への取り組みです。
サステナビリティ課題は、研究室から出て、学問の壁を越え、産学官の境界を越え、協働しなければ解決しない。
境界を越えると、文化も違えば言語も違う。背負っていることも、インセンティブも違って、まあ、面倒くさいことこの上ない。
自分の専門、研究室のコンフォートゾーンから出るのはしんどいことこの上ない。でも、それを乗り越えないと、未来にこの地球を残せない。
福沢諭吉先生は「社会の先導者」を作ることが慶應義塾の使命だと言いました。
慶應義塾の原点に立ち戻り、ここに集った人たちと、産学官の境界を越える形を作り、この日本、世界、地球を幸せな場所にする。
その取り組みをご一緒させていただければと思います。
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